越後発の新技術「高圧技術」が世界を変える

研究内容

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  • 1.高圧処理による餅の物性変化

     一般に、餅の団粒構造は大粒、小粒、そしてそれらを繋ぐデンプンの糊で構成されています。大粒は弾力性に深く関わり、小粒の粒度は舌触りに、また繋ぎの糊の質で伸展性が決定されます。杵搗き直後の軟らかいうちに、400MPa、10minの処理を行い、急冷固化すると、無処理品(下図左)に比較して、餅中の空気泡が減少しました。

     高圧処理で、餅の内部の空気泡を減少させると、比重が増加します。これに伴って、調理時の熱水への湯溶け率(100℃の沸騰水中での試料の溶出率)を1/5以下まで減少させることができました。圧力処理品は白色の濁りが減少し、透明度の増加した均質な餅となりましたが、焼き上がりや煮えが早く、また同じ水分で比較すると明らかに弾力性の上昇が認められました。

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  • 2.米菓の高圧処理製法

     米菓は一度米を蒸して成形したのち、再度焙焼処理を行っており、工程中に2回の糊化処理を行っているため、加工時間が長く、かつ煩雑となっています。そこで、高圧処理によりデンプンが変性することに着目し、煎餅の製造における1回目の糊化工程(蒸工程)を圧力によって代替し、大幅な工程の省略化を試みました。

     米粉は700MPa、10分の高圧処理を施すと、適度な粘性が生じ、保水性と成形性に優れた団子が得られました。

     これは蒸した団子と同等の加工適性を持ち、好みの形に成形して焙焼でき、食味テストの結果、食感、風味ともに既存の煎餅と同等の評価が得られました。

     高圧処理を煎餅の製造に導入すると、製造工程が大幅に短縮されるために労働力が60%程度削減される計算になります。

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  • 3.炊飯米の食味の改良

     近年の生活スタイルの多様化により、常温で保存が可能で、電子レンジ加熱のみで喫食できる、簡便な無菌包装米飯の需要が増加しています。

     高圧無菌米飯は穀物へのHi-Pit効果を利用した代表例で、完全自動化にも成功しました。

     浸漬米に高圧処理を施して炊飯した米飯(以下、高圧処理米飯とします)
    は、物性の比較表からわかるように、高圧処理後に炊飯することによって粘りが増加し、おいしさの指標であるバランス度が上昇し、食感が良好になります。

     また、ごはんのおいしさは「糊化度」という指標で表されます。高圧処理米飯と通常のご飯の保存日数による糊化度の変化と、これを電子レンジで再加熱したときの復元性を見てみましょう。

     図より、高圧処理米飯は無処理米飯に比べて、炊飯直後から糊化度が高いだけでなく、保存経過中も、また、電子レンジによる再加熱後も、共に高い糊化度を示しています。

     さらに、高圧処理米飯は電子レンジで再加熱すると炊飯直後(炊きたて)より高い糊化度を示しています。

     これは、高圧処理によって米粒中の細胞壁が破壊され、澱粉粒に外部から水が到達し易くなり、糊化度が上昇したものと考えられています。つまり、高圧処理米飯は、粘りが増加し、冷めても弾力性が残り、長期に亘って美味しさが持続する、新しいタイプの無菌米飯なのです。

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  • 4.餅の各種副材料の殺菌

     近年、製餅加工技術の進歩により、原材料の耐熱性菌を減少させることで、蒸工程(100℃、30分前後)で殺菌し、無菌製品が作られるようになりました。したがって、高圧殺菌により、自然の風味を残した副材料(蓬、豆、海苔など)を得ることができれば、嗜好の多様化に対応した各種無菌製品(蓬餅、豆餅、海苔餅など)の製造が可能になります。

     そこで、無菌化する場合に指標となる代表的な微生物を選択して実験した結果、副材料に400MPa、45℃、10minの高圧処理を施すことで芽胞を形成するBacillus属以外の微生物の殺菌が可能であることがわかりました。

     さらに、耐熱性の芽胞に対し、実際の生産の場合を考え、品質や熱利用の合理性、温度勾配や熱伝達速度、タンパク質、脂質、塩類および夾雑物による殺菌効果の減衰等を考慮した結果、青豆については、70℃、700MPa、10minの条件で、また蓬と青海苔粉については炭酸水素ナトリウムの0.1% 添加により45℃、400MPa、10minの条件で、加熱殺菌に比べて色、香り、そして味を損なわずに無菌化できることがわかりました。

     図は蓬葉の各除菌工程における一般生菌数の変化を表したものです。

    ブランチング:NaHCO3溶液中で 100℃,1分間の処理
    ●:無菌蓬の各製造工程での生菌数
    ▲:ブランチング後に30℃で400MPa10分処理
    ■:水洗浄後に60℃で400MPa 10分処理

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  • 5.低アレルゲン米の製造効率の向上

     近年、小麦や米などの穀物には共通抗原(免疫反応を惹起する物質;アレルゲン)が存在し、主食であるにもかかわらず、どちらも食べられない患者が増加しています。つまり、低アレルゲン米を開発することは、米アレルギーの患者だけでなく、小麦アレルギーの患者に対する安全な穀物の提供につながるのです。

    精白米に高圧処理を施すことで、細胞壁や細胞膜が破壊され、その後の作業でアレルゲンタンパク質(米アルブミン、グロブリン)の抽出が容易となる形質に転換することができます。

    図はRAST Inhibition法により抽出物に残存している米抗原の相対量を米アレルギー患者の血清を用いて測定した結果です。低アレルゲン米(A-カット米)に残存する抗原は未処理米の10-4以下であることが分かります。

    この「A-カット米」を原料として作製した低アレルゲンパン(A-カットパン)は、小麦粉原料のパンに比較して、抗原濃度が1×10-8程度に減少していました。

    現在、この低アレルゲンご飯(A-カットご飯)とパン(A-カットパン)は、多くの患者さんに愛用されています。

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  • 6.玄米中へのGABAの蓄積効果

     玄米には白米に比べて多くのビタミンやミネラル、食物繊維、そして薬理活性成分が含まれています。その中でもγ-アミノ酪酸(以下GABAとする)には血圧降下作用が確認されています。このGABAは最初から多量に含まれているわけではなく、炊飯前の浸漬時間中にグルタミン酸脱炭酸酵素の働きでグルタミン酸から生合成されることが知られています。発芽処理によりGABA含量を高めた発芽玄米が市販されていますが、酸味や雑味があり、食味に劣るとの指摘があります。そこで、Hi-Pit効果を利用することにより、高圧処理を利用した既報の加工法を改良し、玄米を発芽させずにGABAの蓄積量を増加させる「GABA富化加工法」を確立しました。

     高圧処理(200MPa)により、米粒内の組織破壊を誘引し、米の内在酵素(GABA生成酵素)と内在基質(グルタミン酸)が容易に会合できる形質に転換し、その後の静置操作で、酵素反応を促進させ、GABAを増加させることができました。玄米の表面を1%研削し、25℃で200MPaの高圧処理を5分間施し、継続して1時間浸漬した後に水切りし、25℃の飽和湿度下で18時間静置させることにより、原料玄米のGABAの蓄積量(6.0㎎)と比べて3倍以上のGABAを蓄積させることができました。

     高圧処理玄米は、市販の発芽玄米よりGABAを多く含み、外観、香り、食味、に優れていました。また、未処理の玄米よりも消化の速度が速くなります。

     このように、高圧処理で発芽処理を代替し、GABAの蓄積量を増加させた加工方法を確立し、工業的に、簡便で作業性に優れた、GABA富化玄米を発売することができました。

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  • 7.高圧利用による余剰活性汚泥の生物分解性の向上

     産業廃棄物の総排出量は年間約4億tに達しており深刻な社会問題となっています。そのうち排水処理施設等で生じる余剰活性汚泥(以下、汚泥とする)の占める割合は、全産業廃棄物の約45 % になります。汚泥は脱水後、埋め立て、焼却、海洋投棄などが行われていますが、最終処分場の不足、自然環境の汚染などの問題を抱えています。

     食品産業では一般的に活性汚泥槽が使用されています。高圧処理により魚のすり身中の微生物の栄養細胞が損傷を受け、その成分が溶出することが確認されており、高圧処理を行うことで、現存の施設のままで消化の促進が図れるのではないかと考えられます。そこで、汚泥の性状を変化させ、好気的条件下での消化率の向上を目的に、汚泥の高圧処理を行いました。

     汚泥に100~700MPa、10分の高圧処理を施した結果、400MPaにおいて微生物細胞の破壊による糖質、タンパク質等の漏出が最も効率よく行われたため、400MPa、10分の条件で実験を行いました。

     汚泥消化実験では、容量の30%を毎日高圧処理することで、10日後にはMLSS(活性汚泥浮遊物質)、MLVSS(活性汚泥有機性浮遊物質)の減少量が2倍となりました(図)。これは、高圧処理により汚泥を構成する微生物の細胞から漏出した有機物が他の微生物の代謝を促進させ、消化が進んだものと推察されます。

     微生物相では開始時、Entopiphon属を主とした原生動物が多くみられましたが、75日後、圧力処理区はBodo属を主とした原生動物へと変化しました。高圧処理を継続することで微生物細胞から漏出した有機物が可溶性有機物の残留する環境で生育するBodo属等の生育を促したと考えられます(表)。

    消化実験における微生物層の変化
    実験開始時の微生物相 経過日数 10日 20日 30日 40日 50日 60日 75日
    MLSS 7,000[mg/l] 2槽平均のMLSS 6,835 6,750 6,457 6,655 6,600 6,380 [mg/l]
    Entosiphon属 350 無処理区 Entosiphon属->    
    Pleuromonas属 220 Opercularia属 Pleuromonas属 300
          Aspidisca属-> Aspidisca属 80
    Aspidisca属 350    
    Trachelophyllum属 190     Scenedesmus属->   [個/ml]
    Opercularia属 550 2槽平均のMLSS 6,198 6,145 6,021 5,970 5,915 5,840 [mg/l]
    Spirostomum属 260 高圧
    処理区
       
        Entosiphon属->     Colpidium属 160
    Aeolosoma属 190 Bodo属-> Bodo属 240
    Notommata属 65 Astasia属-> Astasia属 120
          Euglena属  
      (個/ml)   Scenedesmus属-> [個/ml]
    一般生菌数   無処理区 1.6×10-6 4.0×10-6     3.4×10-6 2.8×10-7 4.0×10-7
    2.0×10-6 (cfu/ml) 高圧
    処理区
    1.9×10-6 1.8×10-6     1.1×10-6 6.4×10-7 3.8×10-7

     一般生菌数は、無処理区と圧力処理区でほとんど変化は見られませんでした。これは、世代交代が早く、増殖速度の大きい微生物に対しては、1日1回の高圧処理では影響が極めて小さくなるためと考えられます。

     今後さらに圧力による微生物層の変化と、汚泥消化率との関係を検討する必要があると思われます。

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  • 8.八穀麹味噌の製造

     味噌は日本の伝統的な発酵食品であり、国内では主に米味噌、麦味噌、豆味噌が醸造されています。近年、ソバやきび、あわなどの穀物を麹に使用した味噌や、蒸米と蒸し煮大豆の混合麹を使用した、特色ある味噌の醸造方法についての研究が行われています。

     大麦、はと麦、きび、赤米、大豆、黒豆、小豆等の8種類の穀物を麹の原料とした味噌の開発にあたり、精白歩合が95%以上の精白米を麹の原料として使用した場合は、破精回りや破精込みが悪いこと、また玄米を用いて製麹した場合は、酵素活性が低く、さらにその状貌から、麹菌が繁殖しにくいことが知られているため、これらの障害を克服するために高圧処理を施しました。

     すなわち、高圧処理により穀物の組織破壊を誘引して、穀物の表面租度を粗くし、麹菌が着床しやすい形質に転換します。これを用いて味噌の製麹を行い、機能性味噌の醸造方法について研究しました。玄米など8種類の穀物に200MPaの高圧処理を施した結果、八穀麹は製麹時に麹菌糸の良好な伸延が見られました。八穀麹味噌の熟成期においても、酸度の上昇、pHの低下、Y値の低下、エチルアルコールの生成が見られました。玄米や赤米、麦類などは糖化して通常の米味噌のように味噌中に溶け込みました。八穀麹味噌は、米麹味噌に比べてアミノ酸、食物繊維、カルシウム、鉄、ビタミンB1を多く含んでいるため、濃厚な旨みと穀物独特の香りが醸成されています。

    八穀こうじ味噌と米こうじ味噌の有用成分の比較
    Content/100g-miso Free amino acid Dietary fiber Calcium Vitamin B1 SOD
    (mg) (mg) (mg) (mg) (U)
    Rice koji miso(米麹味噌) 3165 2600 47.5 0.08 5000
    Hakkoku Koji miso(八穀麹味噌) 4485 3000 71.9 0.18 33420
    Ratio 1.4 1.2 1.5 2.3 2.2

     高圧処理を施した原料を用いて、工場規模の醸造試験を行い、常法の製麹および味噌の製造が可能であることを確認しました。現在、この製品は、健康維持に必須の成分を豊富に含み、さっぱりした味の中に味噌本来のコクと旨味が凝縮しているとの評価を得ています。

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  • 9.漬物への高圧処理

     高圧処理は、圧力が水などの溶媒を媒介として、被処理物へ瞬時に隅々まで一様に伝わるので、偏りがなく均一な処理が可能です。そして、微生物の殺菌効果の他に、寄生虫の殺虫効果もあることが知られており、25℃で200 MPa、5分間の高圧処理により、旋毛虫の筋肉内幼虫が死滅すると報告されています。漬物への高圧処理は、キムチの他に、しょう油もろみ漬けやしば漬け、野沢菜漬けなどへの応用例が報告されており、近年では400 MPaの高圧処理により殺菌した「生たくあん」が市販化されました。

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  • 10.キムチの発酵制御

     日本で製造されているキムチの多くは、白菜あるいはその浅漬けに「タレ」を混ぜて製造された速成漬物であり、ほとんど発酵工程を経ていません。本来、キムチは野菜等の原料由来の微生物によって発酵させた発酵漬物です。しかし、発酵工程ではさまざまな微生物が関与しているため、長期保存によって酸味が増加し、包装体で密封した場合は、酵母等に起因する炭酸ガスの発生で包装体が破裂するなどの不具合が生じます。また、加熱処理で発酵を抑制すると、風味や食感が顕著に低下します。

     そこで、微生物によって圧力耐性が異なることを利用し、高圧処理で微生物を制御し、ガスの発生を抑え、食味を低下させずに長期保存が可能な製造方法を確立しました。

     キムチに20℃、300MPa、5minの高圧処理を施すことで、発酵に必要な乳酸菌を生存させたままで、酵母を不活化させ、保存中に発生するガスによる包装体の膨張を防止することができました。

     また、高圧処理により、乳酸の生成が抑えられ、長期にわたり酸味の増加を抑制することができ、10℃の保存で喫食可能な期間を延長することができました。発酵中期に高圧処理を施したキムチは、香り、食感ともに無処理キムチより高い評価になりました。

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  • 11.高圧処理とパルス処理との併用による殺菌

     栄養細胞に対して、高圧処理やパルス処理の殺菌効果は認められていますが、これらの非加熱殺菌を単独で施しても、耐熱性芽胞の完全な不活化は困難です。そこで、高圧処理とパルス処理を併用し、芽胞の不活化を可能とする複合殺菌処理を実現しました。

    1. 芽胞の不活化に関しては、単独処理に比較して、パルス処理後に高圧処理を施す方法が顕著な効果を示しました。
    2. 処理後の検体を5℃で低温保存すると発芽数が減少し、芽胞の不活化が促進されました。
    3. 位相差顕微鏡で芽胞を観察すると、無処理の試料では、光沢のある芽胞(相明芽胞)が徐々に暗色化し、その後に発芽して栄養細胞へと変化しました。しかし、パルス処理後に高圧処理を施した芽胞は、暗色化が起きず、発芽しませんでした。

    (a‐d) 無処理の芽胞
         a), control ; b), 1 h後 ; c), 2 h後 ; d), 3 h後.
    (e‐h) パルス(PEF(12kV))/高圧(HHP(700MPa)) 処理の芽胞
         e), control ; f), 2 h 後; g), 5 h後; h), 24 h後

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  • 12.機能性食品
    ■大豆ペプチド

     大豆は、栄養成分に優れた農作物であり、わが国では昔から加工食品に広く利用されており、タンパク質の加水分解物であるペプチドには、独自の生理機能を有するものが発見されています。中でも、大豆ペプチドは、血中コレステロール低下作用や血圧上昇抑制作用などの多くの生理機能を有することが報告されています。

     高圧処理の特徴の一つであるHi-Pit効果を利用し、「組織破壊」によってタンパク質の酵素分解を促進させ、ペプチドの増強を試みました。

     浸漬した大豆に対し、浸漬水と共に高圧処理を施し、その後、常圧下で大豆の内在酵素が作用する時間を設けてペプチドの経時的変化を測定しました。この結果、400MPaで高圧処理を施し、40℃で3時間放置した試料(大豆と浸漬水)のペプチドが最も増加しました。

    (a); soaked soybeans, (b); soaking solution.
    □; incudate time 0 hr, ■; incubate time 3 hr.

     高圧処理により、大豆種子中の液胞が崩壊したと推察されることから、「組織破壊」によって加水分解酵素と基質が会合し易くなり、タンパク質の分解が促進されたと考えられます。

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    ■ニンニク中の生理活性成分の消長

     古来より、ニンニクは滋養強壮の目的で民間薬として親しまれていますが、近年、動脈硬化、ガン予防の視点から新たな注目を集めています。このような生理活性はニンニク中のアリインやアリシンなどの有機硫黄化合物によるものと考えられています。アリインが含まれる鱗片の細胞を傷つけると、酵素によってアリシンが生成されます。アリシンには、抗菌、抗ウイルス、抗原虫、抗寄生虫、の効果のほか、別種の生理活性をもつ物質に変化することが知られています。

     ニンニクは摩り下ろすと、C-Sリパーゼによってアリシンが生成されます。

    mg/100g アリイン アリシン
    無処理(丸粒) 1298 0
    摩り下ろし(ペースト状) 317 154

     しかし、食材としての多様性に劣るため、ニンニクの外観を変化させずに有用成分を増強する目的で、高圧処理を施しました。

     無処理のニンニクを放置するとアリインは減少しますが、アリシンは検出されません。一方、400MPa以上の高圧処理では、アリインが減少し、アリシンが生成されました。

      無処理 400MPa 600MPa
      アリイン アリシン アリイン アリシン アリイン アリシン
    処理直後 1300 0 1248 0 1235 0
    処理直後 884 0 686 77 1053 67
    14日後 793 0 650 65 1040 40

     摩り下ろしニンニクと比べればアリシンの含有量は少ないものの、高圧処理によって丸粒の状態で基質のアリインを残しながらアリシンを増強することが可能となりました。400MPa以上で処理したニンニクでは細胞が破壊され、アリインとC-Sリパーゼの反応が促進されたものと考えられます。

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    ジャガイモ・アボカド中に含まれるビタミンCの消長

     植物中に含まれるビタミンC(以下、AsAと略す)はグルコースを基質とし、9つの酵素反応を経てAsAに生合成されます。AsAは熱に弱く、調理や保存中にも分解されますが、より高濃度であれば、喫食中に摂取できるAsAも多くなると推論されます。初発の含有量が少なく、土壌および樹木上で採取される植物(ジャガイモ、アボカド)に含まれるAsAの含有量の富化を検討しました。

    ■ジャガイモ

     無処理のジャガイモに含まれるAsA量の個体差および部位差を調べたところ、表皮に近い外側と中心部とでは、有意な差はありませんでした。図に高圧処理後、大気圧下で数時間放置した際のAsAおよびその基質となるグルコースの含有量を、初発を100として相対量で示しました。100MPaの処理ではAsAは増加し、グルコースが減少する傾向が見受けられました。500MPaの処理ではAsAが減少する傾向を示しました。

     処理後9日目までAsAの含有量を測定した結果、200MPa以上の処理では初発のAsA含有量よりも減少し、700MPaの処理では、保存9日目にAsAが検出されなくなりました。なお、AsAはアスコルビン酸オキシターゼ(以下、AAOと略す)によって酸の分解を受けることが知られています。したがって、この結果は生成反応と分解反応が混在した、見かけのAsAの蓄積量であることを示しています。200MPa以上の高圧処理では、AAO等の分解酵素が生成酵素よりも優勢に反応したものと思われました。

     図に処理直後のジャガイモ組織のSEM写真を示します。無処理では細胞壁のハニカム構造が保たれているのに対し、高圧処理を施すことにより、組織に歪みが生じていることが観察されました。このようにして、高圧処理により組織が破壊され、基質となるグルコース等から種々の酵素反応によってAsAが合成、分解されたものと考えられます。

    ジャガイモの細胞性状に及ぼす高圧処理の影響

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    ■アボカド

     図に50MPaの高圧処理を施した後のアボカドのAsAの含有量の変化を示しました。

     アボカドは熟成の程度によりAsAの含有量が異なり、熟成するとAsAが増加し、過熟になるとAsAが減少します。

     高圧処理直後では、未熟のアボカドにおいてAsAが約3倍も増加され、無処理の完熟と同等の蓄積量となりました。なお、その後の保存により減少して、初発と同量になりました。

     この結果から、未熟の場合はAsA生成酵素とAAO等の分解酵素も活性が高いと推測されました。また、過熟では、双方の酵素系の活性が弱まっていることが示唆されました。

    アボカドの熟度別における
    高圧処理後のAsA含有量の変化

     次に完熟したアボカドを用いて処理後8日間までAsAの含有量を測定した結果を示します。700MPaの高圧処理により、AsAが処理後2日で最大3倍の含有量となりました。その後、徐々に減少し、8日目には初発の含有量にまで減少しました。

     AsAを生成する酵素反応は、50MPa処理で十分な蓄積効果があり、比較的低圧領域であるため、産業化のためのコスト負担が少なく、実用性が高いと考えられます。

    アボカドにおける
    AsA含有量の経時変化

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    ■高圧加工オイスター

     加工用の生ガキは、熟練した打ち子が専用器具で二枚貝を開き、貝柱をはがして身を取り出しています。しかし、熟練者でも殻の破片混入は避けられないため、冷凍カキフライなどの工場ではX線検知が求められたりしていますが、200MPaで数分間処理をすると、二枚貝は開き、振るだけで生と遜色ない身が取り出せるようになります。しかも、高圧を用いれば、殻片のリスクが低減するだけではなく、作業効率が大幅に向上します。これは広島ですでに実用化されています。

     これらの新技術では超高圧よりもやや低い「中高圧」とも呼べる圧力が利用されており、装置コストを低減し、技術を広く活用するためには、できる限り低い圧力を利用する技術の開発が重要となるでしょう。

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参考資料

日本高圧力学会
<日本応用糖質科学会>
<(社)日本食品科学工学会>
<(社)日本農芸化学会>
  • 高圧を利用した米加工食品の開発

    日本農芸化学会誌 Vol.74, No.5, pp.619~623 (2000)

<(社)日本ゴム協会>
<日本調理科学会>
<(社)日本アレルギー学会>
  • 低アレルゲン米の有用性について―CAST法を用いての検討

    アレルギー誌 Vol.48, No.1, pp56~63 (1999)

<日本熱測定学会>
  • 高圧処理および熱処理後における各種澱粉-水系中の水の存在状態の比較

    熱測定誌 Vol.23, No.4, pp149~158 (1996)

<㈱産業用水調査会>
  • 高圧利用による余剰活性汚泥の生物分解性の向上

    用水と廃水 Vol.37, No.7, pp545~549 (1995)

<さんえい出版>
<日本食糧新聞社出版 月刊 食品工場長>