越後発の新技術「高圧技術」が世界を変える

食品への高圧処理

高圧処理利用方法の変遷

食品の加工に圧力を利用すると、熱を利用した際とはまったく異なる現象が起こります。
加熱と比べると、高圧処理の特徴は
 ①共有結合は開裂しないので、栄養素の破壊、異臭の発生が少なく、安全性を脅かす異常物質が生じません。
 ②容器内のすべての部位で均一な処理ができます。
 ③エネルギーの消費が小さいことも、未来の食品加工に適しています。
 (栄養型細菌の殺菌におけるエネルギー消費の比較では、圧力は熱エネルギーの約1/16)
食品への高圧処理の利用は、安全を求め、生の風味を尊ぶ食品の加工法として有効であるといえます。また、タンパク質やデンプンへの高圧処理は、熱による加工とは物性の面で異なる状態を作り出すので、今までにはない食品素材の開発が期待できます。

第1期:圧力単独での利用

当初は高圧処理を単独で利用し、殺菌を主な目的とした研究が数多く行われ、加圧条件における膨大な基礎データが蓄積されました。
この研究により非加熱殺菌法として、ジャムやジュース、よもぎ餅(ヨモギのみを高圧処理)などが商品化されました。

■ジャムへの高圧処理と加熱処理による変化

高圧処理したジャム(右)は加熱処理したジャム(中)に比べて殺菌前の原料(左)に近い色です。
(さんえい出版発行 「加圧食品 -研究と開発-」誌より転載)

高圧を使った非加熱殺菌法は高い温度を必要としない為、加熱殺菌と比べて色や香りを残したまま食品を殺菌することが可能です。

また、加熱殺菌に比べて、瞬時に圧力が伝わることと圧力が均一に伝わることで調理にムラがなく、短時間で殺菌が可能です。

第2期:熱と圧力の併用

その後、熱と圧力を併用した研究が行われ、タンパク質やデンプンなどの物質を改質して新しい物性の食品を創造する研究も行われました。

大型で安価な全自動バッチ連続式の高圧処理装置が開発されたことを契機に、炊き立てのおいしさを超える無菌包装米飯や無塩漬のハム・ソーセージが製品化されました。

<米の高圧処理>

日本人の主食であり、お餅やおせんべいの原料でもある「米」に高圧をかけたら、どんな変化があるのか。これは、米を使用した商品を提供している越後製菓にとって、とても重要な問題でした。

高圧処理をすると、米はどんな様子になるのでしょうか。
コシヒカリに300MPaの高圧処理を施すと、その体積は9%程度減少しますが、卵の時と同様に形状に変化はなく、無処理と比較して米の周囲が1%程度収縮する計算になります(三次元の体積で9%ですが、一次元の長さでは9の3乗根≒2.08、すなわち米の周囲が1.04%ずつ収縮)。

米の表面を電子顕微鏡で見てみると・・・

【無処理】 【300 MPa、10分】  
米の組織は等方的に圧縮されていますが、それに耐えきれずに組織が壊れたり、組織内にあったデンプン粒が飛び出したりしています。
この米を炊飯すると、無処理のものは亀裂や破裂の跡がみられますが、圧力処理した米はもとの形のまま大きくなり、光沢もあって、米粒がふっくらしています。米の細胞が壊れることによって炊飯時の膨張が均等に起こるために元の形を維持できるのです。
第3期:Hi-Pit効果の利用

さらに、近年は圧力の効果と他の物理的・生物的・生化学的な効果を組み合わせることで、物質の組織破壊や微生物の制御効果を利用して食品素材を新しい形質に転換する研究が進められています。
(「高圧処理によって誘引される形質転換」=High-Pressure induced Transformation Hi-Pit効果

これを利用することで、その食品が含んでいる成分のみを利用して、薬理活性成分等を増強した食品を開発することが可能になり、玄米を発芽させずにGABA含量を高めた「GABA富化玄米」が製品化されました。

<高圧処理によって誘引される形質転換(Hi-Pit効果)>

生体内では、細胞組織に保有する基質(S)に酵素(E)が反応して生成物(P)を生成しています。
   E + S ⇒ E + P
基質と酵素は細胞の近隣に存在し、細胞壁や細胞膜が破壊されると、基質と酵素が会合し、生合成が始まります。

基質(S)と酵素(E)が別々の部屋で暮らしています。
<玄米の例>
玄米の細胞内にアミノ酸の一種であるグルタミン酸(基質S)とその脱炭酸酵素であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ(酵素E)が内在しています。
高圧処理で2つの部屋の壁が壊れます。
高圧処理(200MPa)により米粒内の組織破壊を誘引し、グルタミン酸とグルタミン酸デカルボキシラーゼが容易に会合できる形質に転換されました。
壁が壊れたことで基質と酵素が出会います。
グルタミン酸とグルタミン酸デカルボキシラーゼの脱炭酸反応が促進されます。
グルタミン酸 → γ-アミノ酪酸(GABA)+CO2
酵素の働きで新しい生成物質が出来ました!!
高圧処理により血圧降下作用が確認されているGABAを蓄積することができ、原料玄米と比較して3倍以上含むGABA富化玄米を作ることができました。

今後、高圧処理を利用することで食品中の薬理活性成分を増強した種々の機能性食品が生まれ、食品と薬品の距離が縮まっていくことが予想されます。更には、高齢社会を迎えて、嚥下・咀嚼困難者用食品、易消化性食品の開発など、広大無辺な圧力利用時代が到来することが予測されています。

食品に及ぼす圧力範囲別の効果と製品化の例

食品に及ぼす圧力範囲別の効果
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開発された食品例
  • 野菜類:ヨモギ
  • 果物類:キウイ、イチゴ、ブルーベリー、柿
  • 畜肉類:各種ソーセージ、生ハム
  • 乳製品類:ヨーグルト
  • 魚介類:サケ、イカ、スッポン
  • 主食類:白飯、赤飯、雑穀飯、もち、粥、パン
  • 漬物類:たくあん、キムチ
  • 調味料:味噌、麺つゆ、ポン酢、ゆず液、酵母エキス
  • 酒類・飲料:各種果実飲料