圧力の単位についてで紹介したように、水深10,000mの海底まで行って、やっと100 MPaという高い圧力を得ることができます。そのため、「圧力」はわたしたちの生活空間における重要なパラメータでありながら、手に入れることが難しく、その利用の歴史はまだ浅いのです。
しかし、17世紀の科学者R. Boyleが圧力を科学的パラメータとして認識して以来、蒸気機関や圧力発生装置の開発、アンモニアやダイヤモンドの合成など様々な分野で研究・開発が行われてきました。
高圧は一度、人類を食糧危機から救っています。20世紀初頭にHaberとBoschが圧力を利用した「ハーバー・ボッシュ法」によって、空気と水からアンモニアを合成し、硫安などの窒素肥料ができ、これによって、世界の民を食べさせることができるようになったのです。当時の世界の人口は16億人程度でしたが、やせた土地ではこれだけの人口を食べさせるのは困難でした。しかし、ハーバー・ボッシュ法によって、窒素肥料が無尽蔵の空気から製造されたおかげで、今の67億人の人が食べられるようになったのです。
日本では、1987年に林力丸博士が食品高圧加工の実用化を呼びかけて以来、食品加工において様々な研究が進んでいます。越後製菓では、産業利用のための高圧処理研究を約20年にわたり取り組んでおり、これまでに数々の成果をあげて世界の高圧研究をリードしてきました。
ここでは、1912年にHaberとBoschが圧力を利用してアンモニアの合成法を実用化したことを始めとする、食品への高圧利用の歴史と越後製菓の関わりについて年表でご紹介します。
年 | 出来事 |
---|---|
1912 | ・Fritz Haber,Carl Boschが窒素分子からアンモニアの合成法を開発、実用化。 (1918年にノーベル化学賞) |
1914 | ・P. W. Bridgmanが高圧下での圧縮性状を解析して発表。 (1946年にノーベル物理学賞) |
1959 | ・高圧討論会が京都にて発足。 |
1964 | ・鈴木啓三(立命館大学名誉教授)「生物物理」誌に「高圧下におけるタンパク質の変性」について発表。 |
1972 | ・鈴木啓三・谷口吉弘(立命館大学教授)「The Society for Experimental Biology」誌に「生体高分子とモデルシステムへの圧力効果」について発表。 |
1987 | ・林力丸 京都大学教授が「食品と開発」誌に「調理・加工・殺菌・保存への高圧利用の可能性」を発表。 |
1988 | ・京都大学に「生物関連領域における高圧科学研究会」(主唱 林力丸)が発足「食品加工技術としての圧力利用」と題する講演会を開催。 |
1989 |
・小笠原長宏 新潟大学教授と 鈴木敦士 新潟大学教授を中心に、「新潟県高圧応用食品研究会」が発足。 ⇒ 故 小笠原氏は当社の研究顧問となり、これを機に高圧の研究が加速される。 |
1990 | ・高圧処理ジャム(明治屋)の製品化。 |
1991 | ・グレープフルーツジュース(ポッカコーポレーション)の製品化。 |
1993 | ・日本高圧力学会が日本学術会議の学術研究団体に登録。 |
1994 |
![]() ・米菓、餅、米飯などへの高圧処理技術の研究により「新潟県経済振興賞」を受賞。 ・「高圧バイオサイエンス」誌(さんえい出版)に、山﨑彬が「高圧処理を利用した餅の製造」を、笹川秋彦が「高圧処理を利用した米菓の製造」を発表。 |
1995 | ・山﨑彬「低アレルゲン米の開発研究」により、新潟県知事より「新潟県技術賞」を受賞。 |
1998 | ・山﨑彬・笹川秋彦「高圧処理による米加工食品の開発」の功績により、(社)日本食品科学工学会より「技術賞」を受賞。![]() |
1999 |
・長岡市商工会議所内に「H・P(High Pressure)未来産業創造研究会」が発足(会長 山﨑彬)。 会員46企業が高圧処理を食品に利用する実用研究を開始。 |
2000 |
・シジシージャパン「パスカリゼーションプロジェクト(会長 山﨑彬)」が発足、全国に高圧処理食品の販売網が整う。![]() ・H・P未来産業創造研究会が(財)機械システム振興協会の補助金により、「食品高圧処理製造システム」の新機械システムの開発を行う。(制作協力:越後製菓(株)) |
2001 |
![]() ・山﨑彬「新技術・食品開発賞:高圧処理を利用した新技術による食品開発」を(株)日本食糧新聞社より受賞。 ・H・P未来産業創造研究会が越後製菓(株)宮内工場内に大型の高圧処理設備 (130L×2)を完成。 |
2002 |
・高圧処理による「CGCチョイス八穀ごはん」を発売。![]() |
2003 |
・「地域新生コンソーシアム開発事業」(経済産業省)の産・学・官の委託研究事業を行い、省エネルギーの食品加工技術を開発。 ・高圧処理による「CGCチョイス玄米ごはん」を発売。 ・高圧処理を利用してGABAを富化した「健康玄米」を発売。 |
2004 |
・越後製菓(株)「平成16年度産業財産権制度活用優良企業表彰」(経済産業省)を受賞。 ・山﨑彬「食品の高圧処理技術の開発育成」についての功績が認められ、「文部科学大臣賞」を受賞。 ![]() ![]() ・高圧処理により玄米、豆類等の雑穀を原料とした「CGCチョイス八穀こうじみそ」を発売。 |
2005 | ・高圧無菌包装米飯 韓国の(株)東遠F&Bと技術提携を結ぶ。 |
2006 | ・高圧無菌包装米飯加工プラント (株)東遠F&Bへの輸出開始。 |
2007 |
・(株)東遠F&Bの高圧無菌包装米飯プラント製造を開始。 ・「高圧基盤技術標準化機構」設立。 ・(独)科学技術振興機構の「地域結集型研究開発プログラム」採択。 |
2008 | ・(株)東遠F&Bの無菌包装米飯の製造・販売が軌道に乗り、韓国での米飯プラント実証事業が成功裏に終了。 |
2009 |
・越後製菓(株)「低アレルゲン化小麦」を開発。クッキー・クラッカー・パンを発売。![]() ![]() ![]() ・山﨑彬「食品高圧技術導入産業振興貢献」などの功績が認められ、日本食糧新聞社制定「食品産業功労賞」受賞。 |
2010 | ・越後製菓(株)高圧処理による無菌包装米飯の製造設備(小千谷工場)に着手。 |